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東京地方裁判所 平成7年(ワ)13203号 判決

原告

株式会社オリエントコーポレーション

右代表者代表取締役

新井裕

原告

新井裕

谷始

阿部喜夫

田曽進

右原告ら代理人弁護士

原山庫佳

薦田哲

高橋裕次郎

安藤憲一

岡田正

被告

全国同和会東京都本部長鳥海敏正こと

鳥海敏正

政治結社政友皇志会代表者綿谷政孝こと

綿谷政孝

主文

一  被告らは、原告らに対して、自ら左記の行為をし、若しくは代理人、使用人、従業員又はその他の第三者をして左記の行為を行わせてはならない。

原告らの別紙所在地目録記載の事務所及び各自宅の入口付近から半径五〇〇メートル以内において、街頭宣伝車等の自動車を用いて行進又は停車して、原告らを誹謗中傷する演説を行い、あるいは音楽を放送する等して、原告らの業務を妨害し信用を棄損する一切の行為

二  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁(被告綿谷政孝)

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告株式会社オリエントコーポレーション(以下「原告会社」という。)は、東京都豊島区に本店を置く信販会社である。原告新井裕、同谷始及び同阿部喜夫(以下「原告新井」「原告谷」「原告阿部」という。)は、それぞれ原告会社の社長、副社長、元社長・相談役である。原告田曽進(以下「原告田曽」といい、原告新井、同谷、同阿部及び同田曽を総称して「原告新井ら」という。)は、原告会社のグループ企業である株式会社オリコ商事(以下「オリコ商事」という。)の前社長である。

被告鳥海敏正(以下「被告鳥海」という。)は、全国同和会東京都本部長として、東京都区内に本拠を置き活動している者であり、被告綿谷政孝(以下「被告綿谷」という。)は、政治結社政友皇志会(以下「政友皇志会」という。)の代表者として自治省に政治資金団体の届け出をし、活動している者である。

2(一)  被告らは、共謀して、平成七年三月二〇日、原告会社副社長の原告谷及び当時オリコ商事代表取締役社長であった原告田曽に対し、ザ・フォーラム会員権の販売及びローン設定並びに株式会社ウッディホロン(以下「ウッディホロン」という。)の商取引に関して回答を求める公開質問状を交付した。なお、右公開質問状においては、原告谷を原告会社代表取締役社長と表記している。

(二)  原告会社及びオリコ商事が右質問に回答しないことにしたところ、被告鳥海は、原告田曽に対し、再三面会を強要し、特に平成七年六月二日以降は執拗に面会を強要し、同月一三日には四回にわたり架電するとともに、同月一四日午前九時に突然オリコ商事を訪問して面会を強要し、約一時間三〇分にわたり公開質問状に記載した自己の主張を一方的に述べた。

これに対し、原告田曽は、被告鳥海の一方的な主張を聞き置くに止めた。

3(一)  すると、被告らは、平成七年六月一五日から同年七月三日までの間、別紙政友皇志会街宣活動状況表記載(なお、同表記載の「オリコ」は原告会社のことである。)のとおり、一九回にわたり、原告会社本店所在地及び原告新井らの自宅周辺において、街頭宣伝車等を用いて、ボリューム一杯の大音響で、長時間にわたり執拗に、原告会社及び原告新井らを誹謗中傷する内容の街頭宣伝活動を行った。

(二)  被告らは、右街頭宣伝活動中、①「原告会社とオリコ商事は、営利追求のために、零細企業に商法違反行為であるカラ取引の保証をさせ、営利だけむさぼりとる。あげくの果てには倒産にまで平然と追い込むとは、あまりにもむごたらしい悪質行為である。」、②「原告会社とオリコ商事は、倒産寸前の遊技場利用権、バーター権を販売し、これらにローン設定を行う等、言語道断である。」、③「数々の商法違反行為を公然と繰り返し、その水面下で善良な日本消費者を食い物にするオリコグループ、オリエントコーポレーション、オリコ商事は、現在の企業体制を改め、商法に則った企業体制に立ち直らなければならない。」、④原告会社とそのグループ会社が、利益追求のため、弱い立場の多くの消費者を食い物にし、善良な零細企業を倒産に追い込み、善良な消費者を法の網の目をくぐって騙しており、それらの行為をしているのは、原告会社の役員等である原告新井らである旨発言した。

4  被告らの街頭宣伝活動により、原告会社及び原告新井らとその家族は、著しく信用と名誉を傷つけられ、回復しがたい甚大な精神的苦痛を被った。

また、原告会社を来訪する者及び付近事業者等に多大の迷惑をかけているとともに、原告新井らが居住する静かな住宅街の付近住民に与えている恐怖と困惑は、はかり知れないものがある。

5  被告らは、右のとおり、連日長時間にわたる街頭宣伝活動を行ったほか、本訴提起(平成七年七月五日)後も、被告綿谷において、原告会社横浜支店、同川崎支店周辺で、平成七年七月二八日から同年九月七日にかけて五回にわたり、街頭宣伝活動を行うとともに、被告鳥海において、同年七月七日から同月一一日にかけて三回にわたり、原告会社日本橋支店等に赴き、ゴルフ会員権ローン問題について交渉しており、今後も継続して街頭宣伝活動を行うおそれがある。

6  原告会社は、何人の妨害を受けることもなく平穏に信販業務等を営む権利(営業権)、不法にその社会的評価を侵害されない権利(名誉権)、不法にその経済的評価に対する社会的評価を侵害されない権利(信用権)等の人格権を有し、原告新井らは、右権利に加え、自宅において平穏に生活することを侵害されない権利(平穏生活権)等の人格権を有するものである。

しかるに、被告らの街頭宣伝活動等により、原告らの右各権利が著しく侵害されており、かつ将来も侵害され続けるおそれがあるので、右各権利に基づき、被告らに対し街頭宣伝行為等を禁止する判決を求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張(被告綿谷)

1  請求原因1の事実中、被告鳥海に関する部分は不知、その余は認める。

2(一)  同2(一)の事実中、被告らが共謀したことは否認し、その余は認める。

(二)  同2(二)の事実は不知。

3  同3及び4の各事実は不知又は否認する。

4  同6の主張は争う。

5  ウッディホロンの原告代理人に対する「(株)光和との取引経緯」と題するファクシミリ文書には、オリコ商事が善良な零細企業を巻き込み、空取引に及んだ経緯と実態が克明に記載されており、同社が不正に空取引の保証をした事実は明白である。また、バーター権販売についても、ザ・フォーラム・カントリークラブは既に倒産しているのに、平成六年三月にローン設定がなされている。原告らの右行為は、法秩序を乱し、健全な商取引を乱し、日本経済までも腐敗せしめるものであり、断固として社会的制裁を負うべきである。

また、確実なる資料根拠に基づいた発言は表現の自由であり、客観的に価値が高いので、正当行為である。

第三  証拠

本件訴訟記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1の事実中被告鳥海に関する部分を除くその余の部分及び同2(一)の事実中被告らが共謀したことを除くその余の部分は、被告綿谷との間で争いがない。

また、証拠(甲二の二ないし四、四、六の一ないし五、七の一ないし三、七の四の一ないし三、七の五、八の一ないし四、一一)及び弁論の全趣旨によれば、同1の事実中、被告鳥海が全国同和会東京都本部長を名乗って活動していること、同3の事実中、被告綿谷において平成七年六月一五日から同年七月三日までの間、別紙政友皇志会街宣活動状況表記載(ただし、同表記載6⑤を除く。右街宣活動については、これを認めるに足りる的確な証拠がない。)のとおり、原告会社本店所在地及び原告新井らの自宅周辺において、街頭宣伝車等を用いて、大きな音量で、長時間にわたり、同3(二)記載の内容の街頭宣伝活動を行ったことが認められる。

二  右事実及び前掲証拠に、証拠(甲三、九、一〇、一二の一・二、一三の一・二、一四、乙一)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。

1  オリコ商事は、同社と取引のあった山口家具卸販売株式会社(以下「山口家具」という。)に対する売掛金債権の一部につき、山口家具が、株式会社光和(以下「光和」という。)を受取人とする手形を振り出し、光和が裏書きした上、ウッディホロンを経由してオリコ商事に回付することとしていた。

2  被告鳥海と同綿谷は、平成七年三月一四日、オリコ商事を訪問し、同社の所持する山口家具振出の手形二通の書換え及び山口家具への支援を要求するとともに、オリコ商事の扱っていた株式会社ザ・フォーラム・カントリークラブ発行のゴルフ会員権(以下「本件会員権」という。)の販売が違法である旨主張した。

3  被告鳥海は、同月一六日、オリコ商事を再度訪問し、光和の代理人と称して、ウッディホロン保管中の振出人山口家具・受取人光和の手形二通の返還を要求したが、オリコ商事は回答を拒否した。

4  被告綿谷は、同月二〇日、原告会社及びオリコ商事が違法な本件会員権の販売及びローン設定を行っていること並びにウッディホロンの取引が違法であることを主張し、右に関する回答を求める旨の原告会社及びオリコ商事宛の請求原因2の(一)記載の公開質問状を交付した。

5  被告鳥海は、同日、オリコ商事を訪問し、同月一六日と同様の要求をして、責任者の回答を求め、同社が回答を拒否すると、その後も同年四月ころまで、同社及び原告会社への訪問ないし電話を繰り返した。

6  山口家具が平成七年三月二四日破産宣告を受け、オリコ商事が光和に対し手形の裏書遡求権を行使したところ、同年六月七日、被告鳥海は、オリコ商事を訪れ、右手形の支払について、手形の書換えを求めたり、オリコ商事と山口家具との間に架空取引があり、それに相当する商品を納入することを要求し、オリコ商事が弁護士に委任しているとしてこれに応じないでいると、同月一四日まで同様の要求を繰り返した。

7  被告綿谷は、平成七年六月一五日、原告田曽及び同谷の自宅周辺で、街頭宣伝活動を行った(別紙政友皇志会街宣活動状況表記載1)。そこで、原告田曽が被告鳥海に街頭宣伝活動の中止を求めたところ、被告鳥海は被告綿谷に連絡することを約束し、被告綿谷は同月二六日まで街頭宣伝活動を停止した。

8  被告鳥海は、同月二〇日から二六日にかけて、オリコ商事と会談し、前記手形につき、光和に遡求義務のないことを主張したり、オリコ商事の山口家具への未納商品(三億二六六八万五九三一円相当)を納入するか、一億〇一七五万五〇三二円を支払うよう求め、さらに被告綿谷の公開質問状に対する回答を要求した。また、右会談の際、被告鳥海は、同被告が被告綿谷に情報を提供していること、要求に応じない場合には被告綿谷が街頭宣伝活動を再開する可能性のあることを示唆した。

9  オリコ商事が右要求に応じないでいると、被告綿谷は、平成七年六月二七日から同年七月三日までの間、原告会社本社所在地及び原告新井らの自宅周辺で、政友皇志会の名称及び紋章並びに「國防体制を確立せよ!!」、「反共」、「一人一殺」等の文言を大書した黒色大型街頭宣伝車等を用いて、大きな音量で、ほぼ請求原因3(二)の内容の街頭宣伝活動を敢行し(別紙政友皇志会街宣活動状況表記載2ないし6(ただし、同表記載6⑤を除く。))、さらに同年七月四日、五日にもオリコ商事本社並びに原告谷、同田曽及び同阿部の自宅周辺で、繰り返し街頭宣伝活動を行った。

10  平成七年七月七日、被告らに対する仮処分決定(当庁平成七年(ヨ)第三四〇三号街宣活動禁止等仮処分申立事件)がなされたが、その後も、被告綿谷は、同月二八日に原告会社横浜支店周辺で、同年八月二八日に原告会社川崎支店周辺で、同様の街頭宣伝活動を行い、本件第一回口頭弁論期日の直後の同年九月六、七日にも、原告会社横浜支店ないし川崎支店周辺で街頭宣伝活動を繰り返した。また、被告鳥海において、同年七月七日から同月一一日にかけて三回にわたり、原告会社日本橋支店等に赴き、ゴルフ会員権ローンの問題について交渉した。

三 被告綿谷の行った街頭宣伝活動の態様は、前記一並びに二の7及び9のとおりであって、原告らの名誉及び信用を棄損し、原告会社の業務及び原告新井らの平穏な生活を妨げたことは明らかである。

また、前記二の事実によれば、被告らは、平成七年三月一四日にオリコ商事を訪問し、同社と山口家具との取引並びに本件会員権販売及びローン設定について自己の主張を述べた時点以降、被告鳥海においてはオリコ商事を繰り返し訪問し具体的な金額を示す等して金品の引渡等を要求し、被告綿谷においては公開質問状を交付し、街頭宣伝活動を行い、いずれも一貫してオリコ商事に対し右の二点につき回答を要求していること、オリコ商事が被告鳥海の要求を拒絶するや、被告綿谷が街頭宣伝活動を行っていること、被告鳥海が被告綿谷に情報を提供していることを認めていること、被告鳥海の発言どおりに被告綿谷が街頭宣伝活動を停止、再開していること等の事実及び弁論の全趣旨に鑑みれば、被告らは、共謀の上、前記の街頭宣伝活動を繰り返したものと認められる。

そして、被告らは、別紙政友皇志会街宣活動状況表記載(ただし、同表記載6⑤を除く。)のとおり街頭宣伝活動を繰り返したほか、前記仮処分がなされ、本件訴訟が提起されたにもかかわらず、その後も、原告会社の横浜支店や川崎支店周辺に場所を変えて同様の街頭宣伝活動を敢行しており、将来も請求の趣旨記載の行為を繰り返す高度の蓋然性が認められる。

したがって、原告らは、被告らに対し、人格権に基づき前記のような街頭宣伝活動の差し止めを求めることができるものと認められ、原告会社事務所及び原告らの自宅の入口付近から半径五〇〇メートル以内に限定して右差し止めを求める原告らの請求には理由がある。

なお、被告綿谷は、街頭宣伝活動の内容は事実であり、表現の自由として正当な行為である旨主張しているが、被告らの右街頭宣伝活動の態様が「一人一殺」等の文言を大書した黒色大型街頭宣伝車等を利用して大きな音量で繰り返し原告らを誹謗する発言を繰り返すものである上、被告鳥海において山口家具との取引の問題を理由にオリコ商事に金品の交付を要求し、その手段として被告綿谷が右街頭宣伝活動を行っていると推認されることに照らすと右主張は採用し難い。

四  以上のとおり、原告らの本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官宗宮英俊 裁判官小林宏司 裁判官中山雅之)

別紙〈省略〉

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